狐崎さんの工房を見学してきました。


 

お邪魔した日:2011年11月17日

お邪魔した人:飯島正章、花塚光弘、前田大作

 

 


狐崎さんの工房 飯島正章


狐崎さんの工房は国道からわき道を少し入ったところにある。
周りにりんごや梨の畑がひろがり、遠くにゆったりと山が見える。
ぼくの住んでる木曽谷に比べると格段に空が広くて開放感がある。

狐崎さんは5年ほど前にここに工房を建てた。
プレハブ造りで高さを少し高めに建てたのが、仕事をするうえで都合がよく正解だったそうだ。
室内には大型の木工機械がそろっていてまさに家具屋の工房だ。
広さは3間5間の15坪、一人で仕事をするにはちょうど良い広さだと思う。
この仕事場に移ってまだ5年と言うことでそんなに年季の入った感じではない。
どちらかと言えば「足れば良い」といった感じであっさりした雰囲気だ。

そんな工房の中で3×6尺の大きさの作業台は、ずいぶん使い込んでいるように見える。
それもそのはずで、狐崎さんが開業以来ずっと使っているものだ。
そして、狐崎さんの思い入れのある道具でもある。
「思い入れのある道具」が作業台ってどういうことかと思ったが、考えてみればほとんどの道具を使うときはこの作業台の上で行う。
一番使用頻度が高いともいえるし、平面の基準にもなるので大変重要でもある。

コンパネを3枚プレスしてその上にシナ合板を貼ったものを天板にしている。
脚部は3寸角の柱材で組んである。その部分には工具類が収納できるように工夫してある。
以前の仕事場は共同の作業場で、ひとり当たりのスペースが決められていた。
だからこの作業台が同時に道具箱にもなっていたとのこと。
その名残と言うかおそらくそのままだと思うけど、工具類や小物などがびっしり詰まっていた。
共同作業場では気兼ねなく自由に使える場所が、唯一この作業台の上だったのかも知れない。
そういう意味での思い入れもあるような気がする。

工房には作りかけのクルミの椅子があった。
注文品ではなく試作品とのこと。
たまたま暇をもてあましていたので作っているそうだが、普段から試してみたいと思っていたことをいろいろやっているようだ。
部材はすべて曲線で構成されている。
背もたれの部分は積層してありR360ミリ。その他は削り出しのようだ。
面は深めにとってあり全体的に柔らかい感じがした。
部材の接合部も角度の付いた部分が多く、曲面と合わせてかなり手間のかかる仕事をしていると思う。
注文品を作るよりよっぽど楽しそうだ。

狐崎さんの椅子は座や背を籐で編んだものが多い。
この試作品も籐編みで、座面はまだだが背もたれは編み終わっていた。
この籐編みは少し変わっていて面白いと思ったけど、イメージが違うのでやり直すそうだ。

僕は竹かご作りが仕事なのでいろいろと複雑な編み方をすることがある。
でも基本的に竹を編むときは上方がオープンになっていて、そのオープンになったところから竹ひごを差し込んでいける。
うえから次々ヒゴを足していけば編み目ができてしまう。
ところが椅子の座などのフレームは閉じた形なので、一回一回フレームをくぐらせていかなければならない。
結構面倒くさいので、かご屋さんにとってはできればやりたくない作業だ。
そんなことを狐崎さんに言ってみたら「そうでもないよお。」とのことだった。

籐編みの椅子は軽くて、クッションも効いていて快適だ。
編み方によって表情が変わるのも面白いし、何より編み込みならではの微妙な曲面がとても美しいと思う。

今回は見ることが出来なかったけど、ぼくは狐崎さんの棚が印象に残っている。
それは神代楢を使っていて、黒に近い色で渋く仕上げてあり、質感がとても良かった。
シンプルなデザインで和の雰囲気もあり李朝っぽい感じもする。
それでいて洋間に置いても違和感はない。
こういうボーダレスな感覚はいいなあと思う。

木の匠たちの中で気になる人は、小椋さんとのこと。
自分は実家から出たかったり、いろいろなことに縛られたくないからこの道を選んだところがある。
ところが小椋さんは代々続く家柄だし、家業としていろいろな関わりの中で仕事をしていて、物を作ること以外にも気を使うことが多い。
自分には絶対出来ないことをしているというのが理由だった。

狐崎さんほんとに飾り気がなくストレートな人だと思う。
そしてものごとを筋道立ててよく考えている。
そんなところまで考えていたのかと感心することもしばしばある。
女性の家具作家ということで体力的なハンデはあると思うけど、そういう大変さを全く感じさせない。(ほんとに感じてないかも知れないけど。)
今回の見学で工房や作品にそんな狐崎さんの人柄を感じることができた。


狐崎さんの工房   前田大作



信州の南部を、南信と呼びます。
ナンシンという響きに、チュウシンの僕は無条件に憧れる。

実際以上に暖かな雰囲気が、あるのです。

そんな南信州、伊那谷のやわらかな田園風景に
狐崎さんの工房はとけこんでいました。

入口をはいって靴を脱ぐ。
四角い建物の中に、ご自分の思い通りに並べた、木工機械類。
隅っこに、焚き付けが燃やせる、薪ストーブ。
右手には狐崎さんがいちばんのお気に入りだという作業台。
そこに仕込まれた引出しや棚や道具受けにならべられた道具たち。
反対側にはバンドソー、自動盤、横切り、ベルトサンダ、超仕上(!)…。

この「探訪記」の取材の御陰でいろいろな作家さんの工房を巡る機会に恵まれ
修業時代の環境って色濃く続くのだな、とわかってきた。
訓練校を出た方は、やっぱり知識が広いし、工房のレイアウトも整然としてる。
いろいろな技術や道具、機械の中から自分に合うものをチョイスして
自分の作るものを紡ぎ出している。だからなんていうんだろ、

「全体像がみえてる感」があるんですよね。

狐崎さんが木の匠たち展に出展しているなかで、気になる作家は小椋さんとのこと。

聞けばその環境の違い(小椋さんは室町時代からつづく工房の当主)が興味深いのだとか。

長さは比べ物にならないけれど、僕も家業を継いで木工をしているから

どちらかというとスタンスは小椋さん的なのだろう。

自分で木工を選び、自分で工房の場所を選び、自分で作るものを選び、

自分で道具を選んで制作をするスタイルに触れると新鮮に感じる。

そういう視点でもういちど狐崎さんの工房を見渡すと
自分自身で開拓し、築き上げてきた「木工家」という時間が工房内に滞積して、

誇らしい雰囲気に満ちている気がしました。