小椋さんの工房を見学してきました。


お邪魔した日:2011年9月16日

お邪魔した人:飯島正章、狐崎ゆうこ、花塚光弘

写真と解説:花塚光弘

 

 

 



小椋さん   飯島正章


小椋さんは木地屋4代目というけれどそれは南木曽に定住してからで、

それ以前をさかのぼれば平安時代になるらしい。
20代も後半になってから工芸を始めたぼくは、

たたき上げの職人さんとか血筋のある人には強い畏敬の念をもつ。

小椋さんの思い入れのある道具は「ナカギリ」。

チョウナに少し似ているが柄と刃の取り付け角度がもっと鋭角になっている。
刃もかなり薄いというか鋭い。形も独特だった。
昔の雑器の高台の内側はろくろで挽かずにこれではつったということだった。
ただそこそこ大きい道具なのでお椀などには使われなかったらしい。
中のほうを切り取るからナカギリというのかなと思った。

現在主流のろくろのひき方は「タテキ」といって、輪切りにした材を挽いて製品にしていく。
ところが小椋さんは「ヨコキ」といって板状にした材を挽いていく。

タテキはカチッとしてどちらかといえば工業製品のような感じがするが、

ヨコキはもう少しやわらかい感じがするそうだ。
木目を見ればぼくでもタテかヨコかはわかるけど、

カチッとした感じというのはなかなか分からないかもしれない。
また、タテキは全体に均一に挽けるけどヨコキの場合は対角線上に必ず2箇所逆目が出る。

塗装をするとその部分は吸い込みが強いので少し濃くなる。
いわれて見なければなかなか分からないところだけど、

こういう部分が味になっているのかもしれない。

実際にろくろを挽くところを見せていただいた。
直径45センチくらいの円板状に木取ってある材をずんずん削っていく。

荒削りの段階のせいか削りくずも大きい。
わずかな間に皿状に形を変えていく。
いとも簡単にやってしまうところが熟練の技だと感じた。
ぼくは竹工芸をやっているけれど、竹のヒゴ作りとろくろの技術の身につけ方は

近いものがあると思っている。
(理屈はあるけどそれ以上に身体で覚える部分が多くて、フォームがかなり大事なところ。)
今回は荒削りまでで、この状態でしばらく乾燥させてから仕上げの削りをする。
使用しているろくろの軸受けはベアリングを使っていない。真鍮の削り合わせだ。
キチッと調整してやるとベアリング式よりはるかにスムースな回転になるらしい。
先代からのこだわりとのこと。

削り始める前には、かなり明確に完成後のイメージがあるらしい。
これは、自分でそば打ちなどの料理をするようになってから、

特にイメージを持つようになったとの事。
我が家でも小椋さんの器を使わせてもらっているけど、ほんとに使いやすい。
器そのものもきれいだけど、料理を盛ってみると料理も器もともに生き生きとしてくる。
良い物はほんとに良いんだということを小椋さんの器で実感した。

木の匠たち展の中で気になる人は、村上さん槙野さん。
長きにわたってその制作姿勢が変わらないところに魅かれているとのこと。
小椋さんもその時々によってはスタイルが変わるかもしれないけど、

根底に横たわっているものはきっといつまでも変わらないだろうなと思った。

 

 

 


小椋さんの工房   狐崎ゆうこ


小椋さんの工房は古い。
先祖代々ろくろの仕事をしているので、工房もなんだか歴史的建造物の趣だ。

作業場は15坪くらいで板葺き屋根の建物。横で水車が回っている。

かつてはろくろの動力として使われていたそうだ。今は電動。

でも中に入ってもろくろがどこにあるのかすぐにはわからなかった。

掘りごたつのように板で囲われていて、建物の一部と化しているのだ。

これはお父さんもかつて使っていた。お気に入りの道具もおじいさんの時代からの刃物。

 

 とはいえもちろん自分なりのデザインのこだわりはある。

あまりきれいに整然としすぎているのはきらいで、かんなのあとを残したり、

乾燥によるゆがみがちょっとだけ出ていたりするのが好き。

逆目で塗装に少し色むらができるのも気にならない。それから木取りの方法とか、

漆塗りの材料とか、いろいろ聞いたけどたくさんあるので省略。


 さて見上げると梁の上にはお父さんが荒取りした材料が並んでいる。

巾が広そうな板だ。良い材がたくさんあってうらやましい!と思ったが、

そううまくはいかない。ろくろ製品は生木をいったん大まかに削ってから乾燥する。

その後仕上げ削り。他人の荒取りした材では削りすぎた部分があったりして

自分のデザインに仕上げにくいようだ。


 他にも彼が受け継いだものがある。

広くてきれいなショールームやスタッフさんたち、そして歴史。彼の一族の歴史は、

なんと平安時代にまでさかのぼれてしまうのだとか。

(松本直子『南木曽の木地屋の物語 ろくろとイタドリ』未来社 を読んでみてください。

すごいから。)すごいけど重いです。


彼の気になる人は村上さんや槙野さん。一人でこつこつ仕事に没頭する人が好きらしい。

たくさんのものを受け継いで、普通にデザインのことだの木取りのやり方のことなどを考えるのは、

実はとても大変なことなのではないだろうか?


そういえば、その腰の低さ、細やか過ぎる気配りも只者ではない。

いつの間にか接待されて、我々は取材を忘れてすっかりくつろいでしまったのであった。

 

 


ろくろ実演の動画 実演:小椋さん 撮影:花塚さん