匠たちのリレーコラム #1

パテ埋めの日々 狐崎ゆうこ

 

5年ぶりに歯医者に行った。詰め物が取れたのだ。

ついでに見てもらうと虫歯が続々、しばらく通院することになった。

このところ毎食後磨いているのに。なんとなくくやしい。

とはいえ現在は麻酔が程よく効いて昔よりずっと楽。科学の進歩はすばらしい。

 

今日は前歯2本の治療だ。

まず目にゴミが入らないようにとタオルを掛けてくれる。

本当は目が合うのがいやなんじゃないかな。

相手の顔色を伺いつつ作業するのは大変だろうし。

 

「あれ、なんでそこにホゾ穴あけちゃったの?あー失敗しちゃった。

もったいない。どうしてくれるの。私を捨てるつもり?」

うるさい。燃やすぞ。

 

「カンナ掛け下手くそねー。逆目ぼろぼろ。」

木工を辞めたくなるかもしれない。

 

キィーンというおなじみの音が聞こえてくる。

 

以前金属加工の機械で木を削った話を聞いたことがある。

普段どおりに材料をセットしても、木は金属と違って欠けたりして加工が大変だったそうだ。

歯を削る刃はどんな形なのかな。

 

今の歯医者には集塵機がついている。削るそばから粉を吸い込んで口の中は大変快適。

以前は小さな流し台がついていて、頻繁にうがいを繰り返したものだった。

 

うちも昔の歯医者と似たようなもの。

集塵機はあるが、一部の機械にしかつながっていないので、仕事場はすぐほこりだらけだ。

 

さて削りは終わった。詰め物をする。なんだか温かい。ピッ。ピッ。ピー。

機械音がする。紫色の光が見えた。

何が起こってるのかよくわからないんだけど、これで安全性はもちろん、

ぬれてもブラシでこすっても、力を加えてもはがれないとは。

 

ところでこれって要するに「パテ埋め」なのでは?

木工でも虫食い、腐れなどを削ってパテ埋めをする。

もっとも材料も方法もはるかに原始的だし、もちろん普通はなるべく傷のない木を選ぶ。

でもこちらの業界では素材は一点物。補修がメインの仕事になるわけだ。

 

10分くらいたった。もう硬化したようだ。

ゴゴゴガガガ。えらく頭に響くけど、本当にこれで磨いているのか。

・・・まさか鬼目やすり?!

 

「麻酔が切れるまで1時間半くらいは食べたり飲んだりしないでくださいね。

次回は2週間後です。」

 

パテ埋め2ヶ所で所要時間1時間半、次の作業は2週間後。

気の長い仕事だ。今の歯医者は清潔でスマート。でもパテ埋めの毎日って楽しいかなあ。

 

2時間後、問題の箇所を舌で触ってみた。なんだかぼこっと、ざらざらしてるぞ。

サンディングが足りないんじゃないのか。

 

                             20132.17